「てんてんしましまを探して」第13回・映画「記憶探偵と鍵のかかった少女」
「てんてんしましまを探して」は、バッグブランドSaori Mochizukiのデザイナー・望月沙織が興味を持ったヒト・モノ・コトについて、毎週木曜正午に更新していきます。企画詳細についてはこちらをご覧ください。
こんにちは、水玉とストライプ&ボーダーのバッグデザイナー・望月沙織です。
さて、早いもので前回の記事でちょうど3ヶ月を迎えたこの「てんてんしましまを探して」ですが、13回目の今日は、少し趣向を変えて、映画のお話しをしていきたいと思います。
本日取り上げる映画は、今週末2014年9月27日(土)から全国ロードショー予定の「記憶探偵と鍵のかかった少女」です。
「記憶は嘘をつく―真実を知りたければ、思い込みを捨てろ。」
意味深なキャッチフレーズがついたこの映画、さてどんなお話しでしょうか。
「記憶探偵と鍵のかかった少女」
他人の記憶に潜入する特殊能力を持つ探偵に、ある日舞い込んだ美しい少女の記憶を探る依頼。彼女の記憶は不穏な謎に満ちていた。
どこからが《嘘》で、どこまでが《真実》なのか――?
記憶のトリックが襲いくる、新時代の本格ミステリー!
思うに、「記憶」には色んな種類があります。
バッグ作りには「経験」という名の記憶の積み重ねが重要になります。
例えば、うちのバッグの裏貼りに使われている芯地は、表生地の素材(綿とかポリエステルとか)によって、貼り合わせ加工ができる・できない、という差が出てきます。また、加工ができないとされている素材の中にも、この質感だったら貼れますよ、というものもあるのです。
そういう記憶を、加工屋さんの経験の中から引き出してお借りする時もあれば、自分が実際に経験して、記憶として積み上げていく時もあります。
いずれにしてもその積み上げがないと、毎回イチから試行錯誤していかねばならず、非常に効率が悪い。
だからこそ経験の引き出しが多い人は重宝がられるし、単に引き出しが多いだけではなく、「この時はあの引き出し」と、状況に応じて引っ張りだす引き出しの場所を見極められるかどうかはかなり重要な能力になってきます。
しかし、そこに妙な思い込みが絡んでくると、話がややこしくなります。
ちなみにうちのバッグは、「長年バッグを作ってました」というメーカーの人、「買い付けていました」と言うバイヤーの人、色んな方面の人から「こんな手法、思いつきもしなかった」と言われることが多々あります。
具体的には、プリントなど軽くて薄い素材に、ハリのある芯材を使って強度を出す手法のことを指しているのですが、プリント生地もその芯材も、大昔から業界に存在していたものなので、なんら珍しいものではありません。
でもその芯材はこれまで主に革に使われてきたものなので、経験がある人はその記憶が邪魔モノとなり、プリント生地に使う、という発想が全く出てこなかったようなのです。
わたくしは、元々映像制作会社から転じて今のバッグ作りの世界に身を置いています。だから、あまりにもバッグ作りに対する引き出しがなくて、毎回苦労しています。
しかしこの貼り合わせの件に関しては、むしろ経験に邪魔されなかったからこそ出てきたアイディアだと思うと、経験というものは、本当に諸刃の剣だな、と思いました。
それでいうと「思い出」という記憶もあてになりません。
過去のある時間を誰かと一緒に過ごすと、同じ記憶が両者の頭の中には思い出としてインプットされるはずですが、それぞれの感じ方・受け止め方次第で、その記憶はいかようにも変化します。
必死の思いで準備した展示会に、憧れていたお店のバイヤーさんが立ち寄ってくれて、嬉しくなってあとから改めて連絡してみると、全く先方の記憶に残ってない、なんてこともあって、落ち込むこともしばしば(こういう時、どういう顔をしたらいいのかと毎回悩む。たいていは、うへへ、と中途半端な泣き笑い顔を浮かべているような気がする)。
忘れ去られてしまえばなかったも同然なので、こちらとしてはこんな悲しいことはありません。そしてそうなってくると、もはや何がリアルで何がそうじゃないのか、どこに拠り所を見いだしたらいいのかわからなくなってくるのです。
映画「記憶探偵と鍵のかかった少女」の記憶探偵ジョンは、そんな曖昧な人間の記憶に潜入して「真実はなにか」を探り出すのが仕事です。
でも「真実」は、変幻自在です。
開ける引き出しが異なれば、欲しい記憶は引っ張りだせないし、見事開けられたとしても、からっぽな時(きれいさっぱり忘れ去られてしまっている時)もある。
悪気がなくてもそうなんだから、悪気があったとしたらなおさらです。
色んなトラウマを抱え、ご飯を食べなくなってしまった超絶アタマの良い少女アナの記憶を探るよう命じられたジョンは、調査を進めるうちに、次第にアナの記憶に翻弄されるようになります。
アナは自分の記憶をコントロールすることで、何から自分を守りたいのか。いや、そもそも彼女は記憶を操作しているのだろうか。もしかしたらそれは現実に起きたことではないかもしれないけれど、アナにとってはそう見えていた・感じられていた、ということもある。そしてそれを見たジョンがどう受け止めて、どういう判断を下すかによっても、物事の見え方は大きく変わっていく。
じゃあ一体どこに軸を見いだしたらいいのだろうか。
この映画でわたくしが感じた一番の怖さはそこだった。見方によってはAかもしれないし、Bかもしれない。でも軸を決めないことには、どこにも進めないではないか。
(展示会のことを)記憶にとどめていてもらえなかったかもしれないけど、自分は頑張ったんだという気持ちにすがって、生きていくのか。それとも、覚えていてもらえてなかったという部分を軸に、なにくそ、次回はもっと!と思って生きていくのか。
衝撃のラストを迎えた後、記憶探偵ジョンは、その出来事をどう記憶にとどめて、進んでいくのだろう。思い込みを捨てた先に残るものは本当に「真実」なのだろうか。
頼りになるはずの記憶に足下をすくわれた時、冷静でいたいと思うならば、もう一度「自分はこれでいい」と思い込む必要もあるのではないだろうか。
アナの心の闇、彼女の未来。そこから感じる、自分の人生。さて、みなさんはどこに「真実」を見出しますか。
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今日の記事でご紹介した映画の詳細情報はこちら
『記憶探偵と鍵のかかった少女』
2014年9月27日(土)、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:ホルヘ・ドラド
プロデューサー:ジャウマ・コレット=セラ(『アンノウン』監督)
出演:マーク・ストロング(『裏切りのサーカス』)、タイッサ・ファーミガ(『ブリングリング』)、ブライアン・コックス(『RED/レッド』)
2013年/アメリカ/英語/カラー/スコープサイズ/1時間39分
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